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高知地方裁判所 昭和61年(ワ)296号 判決 1991年1月24日

主文

一  甲事件被告土佐典具帖紙株式会社、同株式会社高知和紙は、甲事件原告に対し、各自金一〇九三万八二四七円及びこれに対する昭和六一年六月一九日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二  乙事件被告土佐典具帖紙株式会社、同株式会社高知和紙は、乙事件原告に対し、各自次の各金員を支払え。

1  金一一八万〇八〇〇円及びこれに対する昭和六〇年八月二一日から支払いずみまで年六分の割合による金員。

2  金一二〇万八三〇〇円及びこれに対する昭和六〇年八月三一日から支払いずみまで年六分の割合による金員。

3  金一二五万〇六〇〇円及びこれに対する昭和六〇年九月一〇日から支払いずみまで年六分の割合による金員。

4  金二〇四万四三三〇円及びこれに対する昭和六〇年九月二一日から支払いずみまで年六分の割合による金員。

5  金二七八万七七一〇円及びこれに対する昭和六二年一〇月二四日から支払いずみまで年六分の割合による金員。

三  甲事件原告及び乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は二分し、その一を甲・乙事件被告土佐典具帖紙株式会社の負担とし、その余を同株式会社高知和紙の負担とする。

五  この判決第一項、第二項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一A  甲事件の請求の趣旨

1 甲事件被告らは、甲事件原告に対し、各自金一〇九三万八二四七円及びこれに対する昭和六一年六月一九日(甲事件被告濱田猛猪については同月二〇日)から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は甲事件被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

一B  甲事件の請求の趣旨に対する答弁

(甲事件被告ら)

1 甲事件原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は甲事件原告の負担とする。

二A  乙事件の請求の趣旨

1 乙事件被告らは、乙事件原告に対し、各自次の各金員を支払え。

(一) 金一一八万〇八〇〇円及びこれに対する昭和六〇年八月二一日から支払いずみまで年六分の割合による金員。

(二) 金一二〇万八三〇〇円及びこれに対する昭和六〇年八月三一日から支払いずみまで年六分の割合による金員。

(三) 金一二五万〇六〇〇円及びこれに対する昭和六〇年九月一〇日から支払いずみまで年六分の割合による金員。

(四) 金二〇四万四三三〇円及びこれに対する昭和六〇年九月二一日から支払いずみまで年六分の割合による金員。

(五) 金二七八万七七一〇円及びこれに対する昭和六二年一〇月二四日(乙事件被告濱田猛猪については同月二五日)から支払いずみまで年六分の割合による金員。

2 訴訟費用は乙事件被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

二B  乙事件の請求の趣旨に対する答弁

(乙事件被告ら)

1 乙事件原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は乙事件原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一A  甲事件の請求原因

1(一) 甲事件原告は、別紙(一)小切手・約束手形目録(以下「別紙(一)目録」という。)記載の小切手、約束手形合計七通を所持している。

(二) 甲事件被告土佐典具帖紙株式会社(以下「被告土佐典具帖紙」という。)は、右小切手及び約束手形を振り出した。

(三) 別紙(一)目録二ないし四記載の各約束手形の受取人は甲事件原告であり、別紙(一)目録五ないし七記載の各約束手形の裏書は連続している。

2(一) 甲事件被告株式会社高知和紙(以下「被告高知和紙」という。)は、被告土佐典具帖紙と人的、物的構成において同一の会社であり、単に商号を変更したにすぎない。

(1) 目的

被告土佐典具帖紙は、昭和四〇年五月二六日に設立され、その目的は、「1典具帖紙の製造並びに販売、2農林物産の集荷並びに販売、3以上に附帯する一切の事業」であり、被告高知和紙は、昭和六〇年八月一〇日に設立され、その目的は「1土佐和紙の加工並びに販売、2婦人化粧用品の加工並びに販売、3前各号に附帯関連する一切の事業」である。各目的の2号記載事項は付随的であって、各目的は同一である。

(2) 役員構成

被告土佐典具帖紙の代表取締役である甲事件被告濱田猛猪(以下「被告濱田猛猪」という。)と取締役である訴外浜田正一がそれぞれ被告高知和紙の代表取締役、監査役に就任している。また、両会社の役員にはいずれも右濱田猛猪の親族関係者数人が就任しており、両会社は右濱田猛猪の同族会社である。

(3) 本店所在地

被告土佐典具帖紙の本店所在地は、「高知県吾川郡伊野町一四四八番地」となっているが、同会社は事実上被告高知和紙の本店所在地となっている「高知県吾川郡伊野町三七五〇番地」に本店を置き、営業を継続してきたものである。

(4) 営業関係

被告土佐典具帖紙は、事実上営業を続けておらず、同被告が使用していた建物、事務机・椅子、その他什器備品、従業員、電話を被告高知和紙が使用して同種の営業を続けている。また金融機関との取引も実質上被告土佐典具帖紙の名義を被告高知和紙に切り換えたにすぎないものである。

(二) 以上によれば、被告高知和紙は、その代表取締役である濱田猛猪が、被告土佐典具帖紙の債務を免れるために計画的に設立された会社であり、両会社は全く同一の会社というべきものである。

よって、いわゆる法人格否認の法理の適用により、別紙(一)目録記載の小切手、約束手形の負担に関する関係においては、被告高知和紙にもその支払義務がある。

3(一) 被告濱田猛猪は、別紙(一)目録記載の小切手、約束手形につき、昭和六〇年八月ころ、甲事件原告に対し、口頭で支払を保証した。

(二) 仮にそうでないとしても、

被告濱田猛猪は、被告土佐典具帖紙の職務を遂行するにあたり、別紙(一)目録記載の小切手及び約束手形を振り出したが、その振出につき悪意または重過失がある。

すなわち、被告土佐典具帖紙は、資本金一〇〇万円の会社にすぎず、責任財産が脆弱であって、被告濱田猛猪は、右事実を十分に知り、別紙(一)目録記載の小切手及び約束手形につき、各満期にその支払資金の調達できないことを予見しながら、悪意をもって振り出した。

仮に、被告濱田猛猪が不注意にも右の事情を予見しなかったとすれば、重大な過失がある。

(三) 甲事件原告は、被告濱田猛猪の右故意又は重大な過失により、別紙(一)目録記載の小切手及び約束手形につき、その支払を受けられず、その損害を被ったので、商法二六六条の三第一項に基づいて、被告濱田猛猪に対し、損害賠償を請求する。

一B  甲事件の請求原因に対する認否

(被告土佐典具帖紙)

1 甲事件の請求原因1(一)の事実は認める。

2(一) 同1(二)の事実のうち、別紙(一)目録一記載の小切手を、被告土佐典具帖紙が、昭和六〇年八月一日甲事件原告に振出し交付したとの点を否認する。

甲事件原告は、被告土佐典具帖紙から預かっていた小切手用紙に振出日付を虚偽記入したものである。

(二) 同1(二)(三)の事実のうち、別紙(一)目録二ないし四記載の各約束手形の振出日、支払期日及び受取人の記載はいずれも否認する。

これらの記載は、被告土佐典具帖紙から預かっていた約束手形用紙に、甲事件原告が虚偽記入したものである。

(三) 同1(二)(三)の事実のうち、別紙(一)目録五記載の約束手形の輸出典具帳紙協同組合(以下「輸出典具帳紙」という。)による裏書記載を否認する。

輸出典具帳紙は、昭和六〇年六月三〇日に不渡手形を出して事実上倒産しており、その後である同年七月一日に裏書される筈はなく、同手形は裏書の連続を欠くことになる。

同1(二)(三)の事実のうち、別紙(一)目録六及び七記載の各約束手形を被告土佐典具帖紙が振出し交付したとの点を否認する。

右各約束手形の受取人である輸出典具帳紙は、昭和六〇年六月三〇日に事実上倒産したものであり。その後の日に右各約束手形が振出し交付されたことはありえない。

(被告高知和紙)

1 甲事件の請求原因1(一)ないし(三)の各事実は知らない。

2 同2(一)、(二)の各事実は否認する。

被告土佐典具帖紙と同土佐和紙とは、その目的、役員構成、本店所在地、資本金等全て異なっており、両者が同一の会社ということはない。

(被告濱田猛猪)

1 甲事件請求原因3(一)ないし(三)の各事実は否認する。

二A  乙事件の請求原因

1(一) 乙事件原告は、別紙(二)約束手形目録(以下「別紙(二)目録」という。)記載の約束手形八通を所持している。

(二) 乙事件被告土佐典具帖紙(以下「被告土佐典具帖紙」という。)は、右各約束手形を振り出した。

(三) 乙事件原告は、別紙(二)目録1ないし5記載の約束手形を満期日に支払場所(手形交換所)に支払のため呈示したが、支払を拒絶された。

2 甲事件の請求原因2(一)、(二)に同じ(但し、甲事件とあるのを乙事件と読み替える。)

3 甲事件の請求原因3(二)、(三)に同じ(但し、主位的請求原因であり、甲事件とあるのを乙事件と読み替える。)

二B  乙事件の請求原因に対する認否

(被告土佐典具帖紙)

1 乙事件の請求原因1の各事実は否認する(弁論の全趣旨)。

(被告高知和紙)

1 乙事件の請求原因1(一)ないし(三)の各事実は知らない。

2 同2(一)、(二)の各事実は否認する。

(被告濱田猛猪)

1 乙事件の請求原因3(一)ないし(三)の各事実は否認する。

第三 証拠

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  甲事件の請求原因1(小切手、約束手形の振出・交付等)について

1  甲事件原告本人尋問の結果によれば、甲事件の請求原因1(一)の事実(甲事件原告が別紙(一)目録記載の小切手一通、約束手形七通を所持していること)が認められる。

2  右小切手、約束手形の振出・交付について

(一)  成立に争いのない甲事件乙第三号証の四、五(以下、書証番号のみを記載するときは、甲事件の書証を示す。)、第四号証、原本の存在並びに成立に争いのない甲第一〇号証、甲事件原告本人尋問の結果によって真正に成立したと認められる甲第一号証の二、第二号証ないし第四号証の各一ないし三、第五号証の二、第六号証の一、二、第七号証の二、振出日欄及び金額欄の手書部分につき甲事件原告本人尋問の結果によって真正に成立したと認められ、その余の部分につき成立に争いのない甲第一号証の一、第七号証の一、金額欄の手書部分につき甲事件原告本人尋問の結果によって真正に成立したと認められ、その余の部分につき成立に争いのない甲第五号証の一、甲事件原告本人尋問の結果、被告土佐典具帖紙代表者尋問の結果(但し、後記認定に反する部分を除く。)によれば、次の各事実を認めることができ、その認定に反する被告土佐典具帖紙代表者尋問の結果は、他の証拠に照らして信用できず、他にその認定を覆すに足る証拠は存しない。

(1) 甲事件原告は、製紙原料を仕入れて製紙業者に販売することを主な仕事としていること、甲事件原告は、被告土佐典具帖紙とは直接の取引関係はなかったこと、甲事件原告は、昭和五六、七年ころから、被告土佐典具帖紙が振り出した約束手形を、輸出典具帳紙の事実上の代表者である鎮西是男を通じて、その裏書を受けるようになり、昭和五九年秋ころからその量が増加したこと、そのため甲事件原告が、被告土佐典具帖紙の事務所に赴き、代表者の濱田猛猪に確かめたところ、右濱田は、紙の取引で手形を振り出したので宜しく頼む旨を述べたこと。

(2) 輸出典具帳紙は、昭和六〇年六月三〇日を支払期日とする約束手形の決済ができず、同年七月二日不渡りを出して事実上倒産したこと、その直後ころ、甲事件原告は、輸出典具帳紙を経由して取得した被告土佐典具帖紙振出の約束手形の決済ができるかにつき不安を抱き、前記濱田に確認したところ、右濱田は決済する意向を示したこと。

(3) 輸出典具帳紙は、昭和六〇年八月二日高知地方裁判所へ自己破産の申立をし、同年九月一九日破産宣告を受けたが、甲事件原告及び被告土佐典具帖紙はいずれも、輸出典具帳紙に対して多額の債権を有していたこと。

(4) 別紙(一)目録一記載の小切手は、被告土佐典具帖紙が振り出した額面金二一九万三六二〇円、支払期日昭和六〇年七月ころの約束手形の決済に必要であるとして、濱田猛猪から依頼を受け、同年八月一日には支払うというので、甲事件原告が定期預金を解約して、現金で融資し、右小切手の交付を受けたもので、右小切手の振出日付は、被告土佐典具帖紙の事務員か濱田猛猪によって記載されたものであること。

(5) 別紙(一)目録二ないし四記載の約束手形は、被告土佐典具帖紙が振り出した支払期日昭和六〇年七月ころの三通の約束手形が決済できず、同年八月一日には、保証協会の保証で四国銀行伊野支店から借り入れることができることとなっているとして、濱田猛猪から約束手形の書き換えの依頼を受けて、それに応じたものであり、振出日と受取人欄は白地であったため、甲事件原告側で補充したこと。

(6) 別紙(一)目録五記載の約束手形は、昭和六〇年六月二六日ないし二七日ころ、前記鎮西是男が、甲事件原告に対して割引を依頼したもので、同日甲事件原告は金員を交付したこと。

(7) 別紙(一)目録六及び七記載の約束手形は、輸出典具帳紙が手形不渡を出した昭和六〇年六月三〇日(ないし七月二日)よりも数日前に、鎮西是男が、甲事件原告に対して割引を依頼し、同日甲事件原告は金員を交付したもので、右二通の約束手形の振出日は白地であったため、甲事件原告側で補充したこと。

(8) 別紙(一)目録五ないし七の各約束手形の裏書は、手書きではなく、ゴム印で記名されて印章が押捺されており、その方式からみると、裏書は連続していると認められ、それを否定する証拠は存しないこと。

以上が認められる。

(二)  以上によれば、甲事件請求原因1(二)、(三)が認められることとなる。

二  甲事件の請求原因2(法人格の否認の可否)について

1  成立に争いのない甲第八号証の一ないし三、第九号証、第一一号証の一、三、五、七ないし九、乙第一号証、第二号証、原本の存在並びに成立に争いのない甲第一六号証の一ないし五、第一七号証の一ないし九、被告土佐典具帖紙、同高知和紙代表者尋問の結果(但し、後記認定に反する部分を除く。)によれば、次の各事実を認めることができ、その認定に反する被告土佐典具帖紙、同高知和紙代表者尋問の結果は、他の証拠に照らして信用できず、他にその認定を覆すに足る証拠は存しない。

(一)  被告土佐典具帖紙は、昭和四〇年五月二六日に設立された資本金一〇〇万円の株式会社で、その目的は、「1典具帖紙の製造並びに販売、2農林物産の集荷並びに販売、3以上に附帯する一切の事業」とされていること。

被告高知和紙は、昭和六〇年八月一〇日に設立された資本金二〇〇万円の株式会社で、その目的は「1土佐和紙の加工並びに販売、2婦人化粧用品の加工並びに販売、3前各号に附帯関連する一切の事業」とされていること。

両会社は、いずれも、その目的1に記載された和紙に関する業務が中心であり、それ以外はほとんど行われておらず、両会社の目的や営業内容は、事実上同一であること。

(二)  被告土佐典具帖紙の清算前の代表取締役であった被告濱田猛猪と取締役であった浜田正一がそれぞれ被告高知和紙の代表取締役、監査役に就任していること、被告土佐典具帖紙の役員のうち、取締役浜田久仁子は濱田猛猪の娘であり、取締役浜田正一はその夫であること、被告高知和紙の役員のうち、取締役濱田泉は濱田猛猪の親戚であり、取締役佐竹利喜は濱田猛猪の娘婿であることなど、両会社の役員にはいずれも右濱田猛猪の親族関係者数人が就任しており、両会社はいずれも右濱田猛猪の同族会社であること。

(三)  被告土佐典具帖紙の本店所在地は、「高知県吾川郡伊野町一四四八番地」となっているが、同被告は、昭和四三年に火災のため、「高知県吾川郡伊野町三七五〇番地」に移転し、以後そこで営業を続けてきたこと、被告高知和紙の本店所在地は、移転後の被告土佐典具帖紙と同じ場所であり、被告高知和紙は、事実上営業を停止した被告土佐典具帖紙の営業所を引き継いで、本店として営業してきたものであること。

(四)  被告土佐典具帖紙が使用していた建物は、訴外吉井某から賃借していたもので、その後被告高知和紙が引き続いて賃借しており、また、電話番号も両会社で同じであること、事務机、椅子、その他什器備品を被告高知和紙が引き続き使用して同種の営業を続けていること、従業員も大部分は引き継いでいること、被告土佐典具帖紙の取引先の多くを被告高知和紙が引き継いでいること。

(五)  被告土佐典具帖紙は、取引先であった輸出典具帳紙に対して、約一億二、三〇〇〇万円の債権を有していたが、輸出典具帳紙が昭和六〇年六月三〇日支払期日の約束手形の不渡りにより事実上倒産したため、その債権回収が不可能となったこと、被告土佐典具帖紙は、多額の手形債務を負担していたこと、被告高知和紙は、輸出典具帳紙が事実上倒産しておよそ一か月余後の昭和六〇年八月一〇日に設立されたものであるが、輸出典具帳紙が事実上倒産したことにより、被告土佐典具帖紙が倒産する事態になったことが被告高知和紙設立の引き金となっていること。

以上の各事実が認められる。

2  以上によれば、被告土佐典具帖紙と被告高知和紙とは、別個の法人格を有するもので両会社には多少の相違は存在するものの、その目的及び営業内容はほぼ同一であること、役員構成においても代表取締役が同一であるほか、会社の実体は同族会社であること、本店所在地は、形式的には異なっているが、実質的には同一であり、営業用の建物、事務机・椅子、その他什器備品、電話が全く同一であること、従業員も大部分は引き継いでいること、多数の取引先を継承していること、旧会社が有していた多額の債権の回収が困難となり、旧会社が負担していた多額の債務の返済に困難を来していたこと等に鑑みると、新旧会社の実質は前後同一であって、新会社の設立は、旧会社の債務を免れるためになされたものと認められ、新会社の設立は、会社制度の濫用であるという他はない。

よって、いわゆる法人格否認の法理の適用により、別紙(一)目録記載の小切手、約束手形の債務負担に関する関係においては、被告高知和紙にもその支払義務があると認めるのが相当である。

三  甲事件の請求原因3(保証契約の成否及び商法二六六条の三の適用の有無)について

1  甲事件原告、被告濱田猛猪各本人尋問の結果によれば、被告濱田猛猪が、別紙(一)目録記載の小切手、約束手形に関し、甲事件原告に対して、個人として支払いをなす意思が存在することを述べたことがあることは認められるものの、その意思の表示はきわめて漠然としたもので、両者間に、その支払いにつき保証契約が締結されたとみることができるだけの明確な意思表示の合致があったと認めるに足るだけの証拠は存在しない。

2(一)  成立に争いのない乙第一号証、被告濱田猛猪本人尋問の結果によれば、被告土佐典具帖紙の資本金は金一〇〇万円であること、輸出典具帳紙に対して金一億二〇〇〇万円ないし金一億三〇〇〇万円の債権を有していたこと、その経営状態は必ずしも悪いものではなく、輸出典具帳紙に対する債権が回収されておれば、被告土佐典具帖紙が倒産に至ることはなかったことが認められ、被告濱田猛猪は、輸出典具帳紙の再建に努力しており、前記の小切手、約束手形の支払期日にその支払資金を調達できないことを予見していたと認めるに足る証拠は存在しない。

(二)  ところで、以上の各事実に加えて、被告土佐典具帖紙の資本金は少額ではあるが、企業活動は資本金をはるかに超えて行われるものであり、企業者としては、多少の危険を犯すことは当然であることに鑑みると、被告濱田猛猪が、右小切手、約束手形を振り出す際に、各支払期日にその支払資金を調達できないことを予見しなかったことにつき、過失が存在した可能性がないわけではないが、その予見をしなかったことにつき重過失があるとまでは認定できないというべきである。

四  乙事件の請求原因1(約束手形の振出・交付等)について

1  乙事件原告本人尋問の結果によれば、乙事件の請求原因1(一)の事実(乙事件原告が別紙(二)目録記載の約束手形八通を所持していること)が認められる。

2  右約束手形の振出・交付について

(一)  受取人欄の記載を除くその余の記載の成立について争いがなく、乙事件原告本人尋問の結果によって受取人欄の記載が真正に成立したと認められる乙事件甲第一号証ないし第八号証、乙事件原告本人尋問の結果、被告土佐典具帖紙代表者尋問の結果(但し、後記認定に反する部分を除く。)によれば、次の各事実を認めることができ、その認定に反する被告土佐典具帖紙代表者尋問の結果は、他の証拠に照らして信用できず、他にその認定を覆すに足る証拠は存しない。

(1) 乙事件原告は、紙製品の卸販売を目的とした会社であること、乙事件原告は、被告土佐典具帖紙とは直接の取引関係がなかったこと、乙事件原告は、輸出典具帳紙との間に昭和五三年ころから取引があり、輸出典具帳紙に対し、約金一億円の債権を有していること。

(2) 乙事件甲第一号証ないし第八号証の八通の約束手形の受取人欄の記載を除くその余の部分の成立については、当事者間に争いがなく、したがって、右約束手形の振出人欄に記載されている被告土佐典具帖紙の記名押印は真正なものであることが認められることとなる。

(3) 乙事件原告は、右各約束手形を、輸出典具帳紙を経由してその交付を受けたものであること、被告土佐典具帖紙と輸出典具帳紙の間には多額の取引があり、被告土佐典具帖紙振出の多数の約束手形が輸出典具帳紙に対して振り出されていたこと。

(4) 乙事件甲第一号証ないし第八号証は、受取人欄白地で輸出典具帳紙に交付され、輸出典具帳紙は、同じく受取人欄白地で乙事件原告に交付し、乙事件原告がその補充をして、乙事件原告名を記載したこと。

(5) 乙事件被告土佐典具帖紙は、輸出典具帳紙に対して、多額の債権を有していたことから、輸出典具帳紙の再建につき協力的な態度をとっていたこと。

以上の各事実が認められる。

(二)  そこで検討するに、以上の事実関係のもとにおいては、被告土佐典具帖紙は、受取人欄の補充を約束手形の所持人に委ねる趣旨で、目録(二)記載の各約束手形を輸出典具帳紙に交付したものと解され、その後、右各約束手形が輸出典具帳紙から乙事件原告に交付され、乙事件原告において受取人欄を補充したのであるから、被告土佐典具帖紙は、右各約束手形について支払義務があるというべきである。

五  乙事件の請求原因2及び3について

これらについては、二及び三に述べたとおりである。

六  結論

以上によれば、甲事件原告及び乙事件原告の甲・乙事件被告土佐典具帖紙及び同高知和紙に対する請求はいずれも理由があるからこれを認容し、その余(甲・乙事件被告濱田猛猪に対する請求)は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮本敦)

別紙 (一)(二)<省略>

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